時間が空いてしまいましたが、デジタルコンテンツエキスポのレポートその3です。
Stereo D ・上級副社長のアロン・パリー氏の講演についてです。
とても興味深く、濃い内容でした。

翻訳を要約したつもりですが、もし解釈間違いがありましたら教えてください(^^;

そもそも、当ブログでは何度もステレオDの名前を出していますが、改めて説明します。
ステレオDとは、泉邦昭氏と俳優のジョバンニ・リビシ氏がロサンゼルスに設立した会社で、ハリウッド映画等の2D-3D変換を行っています。
泉邦昭氏はどうやら元々は日本のマーキュリーシステムという会社にいらしたようで、良く知らなかったのですが、この会社も3Dに積極的に取り組んでいるようですね。
という事は、独立して設立された会社という事になるのでしょうか。 

さて、今回の講演のテーマは「最上の立体映像の追及」という事でした。
視聴者と3Dの未来はこれを望んでいると。

まず、ステレオDの理念について。それは、
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フィルムメーカーの人達に対して、理想的なクリエイティブビジョンを提示する。
視聴者に対して、限りなく最善に近い3Dの体験をしてもらう。
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という事だそうです。
そしてそれができるのは、最新のシステムを持っているからというだけではなく、それを遂行できるチームがあるからであると。 

続けてこう仰っていました。
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常に最上の3Dを提供する事は産業そのものにとって重要。
もし質の高く無いものを提供すれば、長期的に見て自分達の仕事を害する事になるし、3D産業そのものにダメージを与える。
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全くその通りだと思います。
日本の場合、
適当な事ばかりする五反田に本社のある某社や、3D作品の表彰基準が理解不能なI3DS日本部会が、率先してダメージを与えているようにも思います。

それから、ステレオDの会社概要の説明がありました。
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事業内容は、2D-3D変換、3Dビジュアルエフェクト、 3D収録映像の修整、ステレオスコピックCGレンダリング、3D撮影のコンサルティング。
これらの複数を複合的に行うのが一般的。
作業量は、1か月100分以上、1年間23000ショット、1年間340万フレーム。
泉さんが独自に開発したVDXというソフトを使用して作業を行っている。
総勢900人のスタッフからなる3つのチームがあり、3つの案件を同時にこなす事ができる。
24時間体制で週6日体制ですが、忙しいと週7日体制。
2.4ペタバイトのサーバーや、
4つのシアターを持っている。
他に、CTACという独自開発システムもある。

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との事でした。
それから、この言葉も印象的でした。

品質の高い3Dを作るのは、そう簡単にはいかない。
かなりの人員を要する。


シフト制であっても、週7日営業となれば誰かしら勤務時間は増えているはず。
良く日本人は働き過ぎなどと言いますが、アメリカ人だって大して変わらないのでは?

ステレオDで担当するプロジェクトには、タイタニックようなライブラリータイトルもあれば、アベンジャーズのような世界同時公開作品もあります。
まずは、世界同時公開タイトルを変換する場合について。
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どんなプロジェクトであろうと、ステレオDでは、最終的な納品に至るまで、クリエイティブな視点を持った人が担当している。

まずはフィルムメーカーの人達と綿密な打ち合わせをして、どこまでの完成度を目指すかを決める。
そして、どういった作業工程を辿るかをディレクターと決める。
2Dとストーリーは変わらないが、3Dにする事で助長される事が望まれている。

作業を進める上では、お互いがワークフローを理解して綿密なスケジュールの元に業務を遂行する事が重要。
ステレオグラファーは24時間待機し、監督の要求にいつでも答えられるようにしている。

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2D-3D変換の方法として提案するのは主にこの4つ。
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フルコンバージョン…  2D-3D変換のみを行い、何も付け加えたりしない
リフレクションやグラフィックを加える…  反射や入射光を加える
更に加工する…  雨とか水とかライティングとか、エフェクトを加える
ステレオスケールの調整…  箱庭現象を防ぐために調整を行う

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次に、ライブラリータイトル(=既存タイトル、過去タイトル)を変換する場合について。 
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1、素材のコンディションをチェック
修正が必要か、何年間眠っていたのか、保存状態はどうか

2、どれくらいの人員をかけるか
どれくらいのリソースを裂くか

3、どこにどのくらいの期間を裂くか

ライブラリータイトルは、この3つが合わさって 費用や期間が来まる。
通常は5か月だが、タイタニックは297000フレームあった上にVFXも加えたので、12か月を費やした。
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他にはこのような話もありました。
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ディレクターの「30分後に行くから」などという急な要求への対応の為、1日2回、プロジェクトの状況をチェックする。

何十万フレームの案件が同時に動いていて、 色調整、サウンド調整、編集も平行して進んでいる。
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そして、2D-3D変換の基本的なワークフローについて。
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1、オリジナルの2Dの素材をCTACに取り込む
2、ショット毎にレビューを行う
3、ロトチームがロトアノテーションを行う
4、デプスの色付けを行う
5、もう一度検証する
6、ロトチームがロトの修正を行う
7、もし要求されたら、追加的なエフェクト効果を加える 
8、仕上げのチームが、すべての過程をレビューする

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これで合っているでしょうか(^^;
ここまでやっているからこそ、ムラの無い高品質の変換が可能なのでしょうね。

最後に、よくある質問。
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Q:
3D撮影が良いか、変換が良いか 
A:
きちんと変換されたものであれば、ほとんどの人はその差異に気付かない。
撮影と変換を比較してみたが、その差異はほとんどなかった。

Q:
3D撮影のデメリットは?
A:
修正の余地が無い。撮った後修正するのは困難。
しかし、変換はやり直しが効く。編集上の処理が余裕を持って行える。
また、ほとんどの場合、変換のほうが安い。
実写は、機材レンタル、調整に時間がかかるが、変換はその制約も無い。

Q:スケジュールについて(?) 
A:
VFXを使うような手間の掛かる工程でも、スケジュール管理をきちんと行う事ができるので、スケジュールに狂いは無い。

Q:進捗をどうやって確認するのか。
A:
ステレオDはロサンゼルスだが、もし監督がロンドンにいても、そこにいたまま確認してもらえるシステムがある。CTACがこれを可能にする。
リモートコントロールでコンテンツのチェックができ、修正指示やバジェットコントロールも可能である。
 
Q:
どのようなコンテンツが2D-3D変換に向いているか。
A:
タイタニック公開前までは、アクション、アニメーション、IMAXで上映されるようなコンテンツが向いているのでは無いかと思われていたが、タイタニックの成功によって、テレビドラマやCMやコメディなど何でも、良い3Dにする事は可能だという事を証明した。

そもそも良い3Dとは何か。
人によって基準が違うが、良い3Dになり得る要件がいくつかある。


1.監督の意図がはっきりしている
2.目に負担がかからない
3.カットの繋ぎ目の立体感をなめらかにする事
4.背景の視差が強すぎず適切であること
5.眼間距離が適切な事
6.きちんと画面構成がされている事
7.エッジがきちんと処理されていて、変換した時の不足を補って処理されている事
8. 歪みが無い事(特に人物の周りにおいて)

ステレオDやI3DSでゴールとしている事は何かと言うと、非常に品質の高い3Dの体験を皆さんにお伝えする事。
ではそれをどうやって遂行するのか。
現段階での最高技術と裏打ちされた技術を提供されたスタッフによりそれが可能である。(?)


そうする事でどうなるのか。
我々がやらなくてはならないのは、3Dのエンターテイメント業界を、「良い3D」を作る事によって、自分たちで熟成させ育てていく事。それが健全な産業の育成である。
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こういう話を聞くと、日本製の3Dコンテンツは、求められないから減っていったという訳では無くて、自ら自滅に向かって行ったのかなと思えてきます。
予算などの問題もあるのでしょうけれど、きっとそれだけでは無いはずです。

それから、ステレオDの色々な技術・効果を入れたものとして、「ケイティ・ペリー パート・オブ・ミー3D」の紹介がありました。
この作品は、2D-3D変換、3D撮影静止画、VFX、各追加効果などが盛り込まれているそうです。


以上のお話が終わると、質疑応答の時間がありました。
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質問者名乗らず
Q:アベンジャーズはなぜ3D撮影しなかったのか。一番難しかったカットはどこか。
A:撮影と変換のテストを行い、変換が選ばれた。3D撮影は、俳優の拘束時間が長く、難しかった。
アベンジャーズには、2300のVFXを加えるカットがあり、それは後から調整が可能な2D-3D変換の方が適しているという事もあった。

キュー・テック ステレオスコピックスーパーバイザー 三田さん
Q:タイタニックのスクリーン面の位置について。
手前に人がいて、奥で人がしゃべっているシーンで、しゃべっている人がスクリーン面になっていた。
空間全体がスクリーンを挟んで手前に来ていた。 
そういう演出方法、見せ方・演出について、ジェームズ・キャメロンとの間でどういうやり取りがあったのか。
A:ジェームズ・キャメロンの元にいるステレオグラファーと詳細な打ち合わせを行った。
シーンによって、人が興味を持って見るポイントがスクリーン面に来るようにした。 

I3DS会長 Jim Chabinさん
Q:ステレオDは色んな監督と仕事をしているが 、ジェームズ・キャメロンとスティーブン・スピルバーグは3Dについて違う意見を持っているか。
A:ある部分は同じだがある部分は違う。
ステレオDは色々な選択肢を監督たちに与える事ができる。

ジャーナリスト 大口孝之さん
Q:質問というよりも、最近の3D映画業界に関する感想的な話。
最近の3D映画は、変換の作品より撮影の作品のほうがいくじなし。
アメイジング・スパイダーマンは、3D撮影の失敗を恐れて、その結果つまらない3Dになっていた。
アベンジャーズの方がよほど満足感が高い。
A:色んな選択肢があって良いのでは無いか。 (?)
Q:同じ変換作品でも、 ステレオグラファーによって当たりハズレがある。タイタニックは大当たりだがスターウォーズは大外れ。(スターウォーズはプライムフォーカスだから関係無いけれども。)
ハズレの人に当たってしまった場合はどうすれば良いのか。
A:経験を積めばそれなりの物が作れるようになっていくのではないか。(?)

キュー・テック 大嶋さん
Q:フルコンバージョンの例として、アベンジャーズの爆発や火花のあるシーンがあったが、爆発や火花の素材は存在したのか。それとも、2Dで完成された画の状態から変換を行ったのか。
A:イェスアンドノー。オリジナルの物は完全に変換しているが、後から乗せたものもある。

ナムコバンンダイスタジオ 石井さん
Q:アベンジャーズを観た。人物は見やすかったが、字幕は見やすい位置の人物よりも手前にあった。
字幕が見やすい飛び出し位置を超えているように感じた。 
3D映画が日本でイマイチの理由として、字幕が見辛いという事もあるのでは無いか。
字幕版は吹き替え版よりもスクリーン面を奥にした方が良いのではないか。
A:日本独特の質問である。ディレクターからはその質問もある。
I3DS会長(横から)
「アメリカでも、それはディレクターによって異なる。
ジェームズ・キャメロンは、タイタニックについて字幕の位置も指示している。」 
大口さん(通訳の方から振られて)
「さっき東京国際映画祭で、フラッシュバックメモリーズという映画を観てきた。
邦画だが無声映画で、 主人公の日記の文章が字幕で出る。
字幕の深度によって、 心理状況を表していた。
世界で誰もやっていない新しい手法だった。 
字幕が手前に出たり奥にいったりする事も演出の一つになり得る。」 
アロンさん
「スケジュール調整が一番重要。 (翻訳不足?)」
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といった具合で、最後まで大変盛り上がっていました(^^;

役者の拘束時間を考えると2D-3D変換の方が安いというのは、ハリウッドならではなのかも知れませんね。

スクリーン面については、三田さんの質問を聞いてから、私も今まで以上に気にするようにしています。
リンカーンのレビューも、この講演の影響を少し受けています。
それから、質問者の三田さんが名乗った時にアロンさんが「あー、キュー・テックね。知ってる知ってる。」みたいなリアクションをしていたのが印象的でした。

大口さんのコメントは、スパイダーマンやプライムフォーカスをズバズバとぶった切っておられて痛快でした(笑)
大口さんのような方がネットでももっと情報を発信して下さったら、私のような一般人がこんなブログをやる必要も無くなるのになと思いました(^^;

フルコンバージョンについては、ステレオDで何かを加える事はしないけれど、素材の分かれた撮影データは存在する、という解釈で良いのでしょうか?

字幕についてはやはり色々とありますね。
やはり私は吹き替えを推奨したいと思います。
タレント声優は断固反対。
フラッシュバックメモリーズは公開されたら観に行きます!


それから、振り返ってみると、司会は早稲田大学の河合隆史教授で、客席にはI3DS会長Jim Chabinさん、ジャーナリストの大口孝之さん、キュー・テックのステレオスコピックスーパーバイザーの三田邦彦さん、そしてステレオDの立体スーパーバイザーの青木洋一郎さんと、アロン・パリーさん以外にも凄い方々が集まっておられたんですね(^^;

と、長くなりましたが、Stereo D ・上級副社長のアロン・パリー氏の講演のレポートでした。
やはり3Dに対する姿勢が凄いですね。
今後のステレオDの2D-3D変換作品にも期待!